【産経抄】「習おじさんを熱烈に愛する」と合唱 中国共産党大会に改革派長老の姿はなかった 10月25日
飲んだくれの農場主を追い出した動物たちは、革命を起こして「動物農場」を設立する。その原動力になったのは、「イギリスの獣たち」という歌だった。
▼やがてオスブタの「ナポレオン」が皇帝のように君臨すると、「反乱の歌」との理由で歌うのが禁止される。代わって推奨されるのが、ナポレオンをたたえる詩の朗読である。英国の作家、ジョージ・オーウェルの『動物農場』は、ソ連のスターリンへの個人崇拝を風刺したものだ。
▼ナポレオンを毛沢東に見立ててもいい。「東方紅(あか)く太陽が昇る 中国に毛沢東が現れ 彼こそ中国を救う大きな星」。広く知られる「東方紅」をはじめ、毛沢東を礼賛する歌は数百曲もあるそうだ。
▼続いて中国の最高実力者になったトウ小平は、個人崇拝を厳しく禁じた。トウを賛美する歌も一曲しかない。しかも、歌のなかで「ある老人」として登場するだけである。トウが後継者に指名した江沢民、胡錦濤両氏を称賛する歌も見当たらない。ところが習近平国家主席が権力を握ると、習氏に関する歌が再び作られるようになる。
▼「東方紅」の替え歌から、習氏が肉まんのチェーン店を訪れたエピソードを盛り込んだ新曲まで、当局は宣伝に努めてきた。「習大大(ダーダー)(おじさん)習大大 彼を熱烈に愛する」。5年に1度の中国共産党大会が昨日閉幕した。開会中北京市内でも、市民らが合唱する姿が見られた。
▼大会に招聘(しょうへい)された党長老のなかに、改革派の李鋭氏の姿はなかった。表向きの「体調不良」とは違う理由も取りざたされた。かつて毛沢東の秘書を務めた人物だが、皇帝と大統領の区別がつかなかったという毛の専制に批判的だった。皇帝のように振る舞う、習氏の姿を見たくなかったのかもしれない。