岸田文雄首相は今月5日、ロンドンの金融街シティーで行った講演で、「日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資をしてほしい。Invest in Kishida!(キシダに投資を!)」と訴え、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設等により、「貯蓄から投資へ」の移行を大胆に進め「投資による資産所得倍増を実現する」と表明した。

ロンドンの金融街シティーで「投資による資産所得倍増」を表明した岸田文雄首相(ロイター/アフロ)

 これは、2013年9月25日に当時の安倍晋三首相がニューヨーク証券取引所で投資家を前にして「Buy my Abenomics(アベノミクスは買いだ)」とスピーチした姿を彷彿とさせた。

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<以下抜粋>

政策の一貫性がない岸田内閣

 そもそも、21年9月の自民党総裁選で約束した「令和版所得倍増計画」で倍増の対象とされたのは「勤労所得」であり、分配を労働者に厚くし、金融所得への課税を強化することで、行き過ぎた新自由主義を是正し、バブル崩壊以降没落した分厚い中間層を復活させ、日本経済の再建を図るとの筋書きだったはずだ。今年の春闘に際して経営者に要請した「賃上げ3%」もその路線に沿ったものだったのではないのか。

 資産所得倍増では、資産を持たない国民は取り残されてしまうが、そのあたりはどう考えているのか、現時点でははっきりしない。厚生労働省「国民生活基礎調査」では19年時点で、預貯金はもちろん株式や投資信託などを持たない貯蓄ゼロ世帯は全世帯の13.4%に達している。特に、母子世帯は31.8%がゼロ貯蓄であり、ほぼ3世帯に1世帯となっている。