近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。

 昨年、山県有朋の評伝が話題になった著者が5人の近代日本の政治家を取り扱った評伝集である。いずれも非常に興味深いものであるが、ここでは原敬について取り上げることにしよう。

岡 義武 岩波文庫 1177円(税込)

 原は岩手県盛岡市に生まれた。薩長藩閥政府の時代、東北諸藩の出身者は「白河以北一山百文」といわれた中に育った。16歳で上京以来、原はどんな困難をも耐え忍ぼうと決心し、その決心を守ってきたと後年言った。また、親、兄弟、親戚、友人なども頼みにせず、全ては自分一個の勉強次第であるとして生きたという。

 司法省法学校などに学び新聞社に入るなどしたが、長州の井上馨との関係ができ外務省に入る。次いで、井上農相の下、農商務省参事官となる。次の農相が陸奥宗光で、薩長藩閥政府の中で昇進しながら非薩長閥出身でなかった才能ある二人は、お互いに極めて高く評価し合い緊密な関係となる。

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