2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。独立派が支配を続ける地域の「解放」を目指すだけではなく、隣国の首都の制圧をも目指すというこのようなあからさまな力による現状変更は、おそらく1990年のイラクによるクウェート侵攻以来であろう。湾岸危機では、国連安保理決議に基づいて組織された多国籍軍がイラク軍をクウェートから撤退させた。しかし、ウクライナ戦争では、拒否権を持つロシアが当事国であるため安保理が機能せず、国連の集団安全保障の限界が露呈した。

中国はロシアの失敗を教訓に、台湾有事では航空優勢の確保を図るだろう(AP/AFLO)

 また、米国および北大西洋条約機構(NATO)加盟国はロシアとの核戦争を恐れて直接的な軍事介入の可能性を早々に否定した。ロシアによる核戦争の脅しが、米国および同盟国の介入を抑止したのである。双方に壊滅的な破壊をもたらす核戦争を引き起こす能力をもった勢力が対峙するとき、核戦争への拡大を相手が避けることが期待されるため戦略的安定性が成立するが、逆説的に通常戦力による攻撃が起こりやすくなる。この「安定・不安定パラドックス」は、ロシアが米国やNATOの介入を恐れることなくウクライナへの侵攻を決断した要因の一つであると考えられる。

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