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【産経抄】よく耳にする「させていただく」 相手との距離を測れない不安の表れか 9月24日

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【産経抄】よく耳にする「させていただく」 相手との距離を測れない不安の表れか 9月24日

 東京都内の女性からお便りが届いた。「現代若者の日本語が気になってしようがない」と文字が憂いを含んでいる。とりわけ、妙にへりくだった言葉遣いが耳に障るという。「決定させていただきました」「感じさせていただいてます」などなど。

 ▼動詞に見境なく「させていただく」をつける。店頭や電話口でよく耳にする謙譲表現だが、本来は行為について相手の許しを請う言葉である。「決定いたしました。これが当然の言い方でしたというのに。なんて卑屈な」。女性の指摘には異論をはさむ余地がない。

 ▼敬意とは相手との距離感の表現にほかならないと英文学者の外山滋比古さんが書いている。洋の東西を問わず、身分の差が大きくなるほど相手との間合いも遠くなる。「ことばでは敬語や婉曲(えんきょく)な言いまわしなどで、その距離感を表現する」(『日本語の作法』)と。

 ▼「させていただく」の裏を推し量るなら、相手との距離を測れない不安の表れだろう。「いたします」では失礼かもしれない。もう一段下がるのが無難だ、と。社会から上下関係の厳しさが薄れ、敬語という物差しに不案内な人が増えたとすれば危うい時代である。

 ▼遠回しな物言いを美とする日本語への自信が揺らいでいる観もある。「国語に関する世論調査」では「背筋が凍る」「毒を吐く」などの新語を使う人が増えた。「背筋が寒くなる」では足りぬ恐怖、「毒を含む言葉」では吐き切れない悪感情に満ちた世の中らしい。

 ▼冒頭のお便りは「よくがまんしていられますね。私は怒りか拒絶かで破裂しそうです」と結ばれていた国語の乱れは国家の乱れにつながる、との懸念には小欄も背筋を伸ばさねばなるまい。精進させていただき…ではなかった。精進いたします。

 


タグ:産経抄
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