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日本固有に望みも 河童、妖怪にも化けたカワウソ 8月20日

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【産経抄】日本固有に望みも 河童、妖怪にも化けたカワウソ 8月20日

 その昔、佐賀の人が長崎・対馬に渡った夜の体験談である。宿舎近くで大人数の足音が絶えず聞こえる。亭主に尋ねると「河童(かっぱ)」だという。昼は山におり、夜は海へ出て食料を求めるだけだ、「別に害はせぬ」と。

 ▼江戸後期の考証本に載った証言として、柳田国男が『妖怪談義』に書いている。各地の伝承では、人をあやめるカッパもいた。河川や湖沼への恐れを子供に諭すための、大人の知恵だろう。カッパの化身とされた小動物を人の手から守る意図もあったかもしれない。

 ▼古い記述には、「かはうそは老て河童と成て…」とあるらしい。対馬の宿で先人が聞いた足音も、小さな獣たちによる大行進ならば確かに害はない。良質の毛皮を持つニホンカワウソが乱獲によりその数を減らし、平成24年に「絶滅種」となったのは記憶に新しい。

 ▼その末裔(まつえい)であれと、拝んだ人もいよう。国内で38年ぶりとなる野生のカワウソを琉球大のチームが対馬で撮影した。雌雄1匹ずついるらしい。雄は韓国から約50キロの海を泳いで渡ったユーラシアカワウソの可能性がある。雌の種は不明というから望みがなくもない。

 ▼近江へ赴く人に松尾芭蕉は〈獺(かわうそ)の祭見て来よ瀬田のおく〉と詠んでいる。昔は水の澄む所ならば、どこにでもいたのだろう。江戸時代の図録には妖怪の一つに数えられ、美女に化けて人をたぶらかしたと載っている。カワウソにしてみれば迷惑千万な話に違いない。

 ▼「すわ日本固有種の生き残り」と今回のニュースに浮かれた世間が、一杯食わされたとしても文句は言えまい。「いやいや、あなた方に比べれば」。かの小動物に言葉があるなら言うだろう。幻の獣へと追いやったのは他ならぬ人間だった。狐狸(こり)妖怪など、何ほどのこともない。

 


タグ:産経抄
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