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報じた映像の信憑(しんぴょう)性が揺らげば、報道人の命取りになる。

2015.4.5 05:02更新

【産経抄】
4月5日

 仕込みの手間がミソだという。ドキュメンタリーの草分けで知られた牛山純一さんは、日本テレビの番組「すばらしい世界旅行」の制作に際し、下準備に年単位を費やした。スタッフは5年前から各地に飛ぶ。現地に住む。言葉と習俗になじむ。人脈を築く。

 ▼牛山さんは生前、小紙に語っていた。「真実を求めることの迫力で勝負すべきであり、それを苦しみ抜いてやってきた」。余計な「角度」と「色」を排した、ありのままの映像に勝る価値はない。スポンサーの日立製作所が「何も口を出さないから」と、先立つ制作費を支え続けたのもうなずける。

 ▼調査報道を信条とする、そのNHK番組はどうか。詐欺の仲介役として登場した男性が、記者から「演技をしてほしいと頼まれた」と証言した。「クローズアップ現代」などで昨年放送された内容に「やらせ」の疑いがあるという。

 ▼他に出てきた「多重債務者」の男性も詐欺の活動拠点とされた事務所の借り主も、記者と面識があったとされる。調査報道にしては怪しい相関図である。記者は局内で「敏腕」の評価を得ていたというが、演出家としての腕を買われたわけではあるまい。何をどう仕込んだか明らかにしてもらおう。

 ▼牛山さんは、出演者にポーズを求めることを厳に慎んだ。「どんな細かい『やらせ』でもウソであり、映像表現の力を失わせる」と。報じた映像の信憑(しんぴょう)性が揺らげば、報道人の命取りになる。高い倫理観が生んだ戒めであったろう

 ▼NHKの籾井勝人会長は「先入観を持たずに調査したい」という。同じ報道人としては、色眼鏡をかけることなく報告を待とう。全国各地の「スポンサー」も同じだろう。「何も口を出さないから」と。いや、それは保証しかねる。


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