新型コロナウイルスの感染症法上の分類を危険度が2番目に高い「2類」相当から、季節性インフルエンザと同じ「5類」へと引き下げる議論が政府中心になされている。中国・武漢で最初の感染者が発症したとされる日からすでに3年。分類を2類から引き下げる必要性は、日本での感染拡大初期段階に医療現場から聞こえていた。なぜ、日本は感染対策を転換できないのか。その要因や続けることへの弊害を医療、政治、経済から検証した。
(Rattankun Thongbun/gettyimages)

 政府は12月2日に成立した改正感染症法の付則に、新型コロナウイルスの感染症法上の分類見直しを速やかに検討すると明記した。これに沿って加藤勝信厚生労働大臣は同日の記者会見で、感染法上2類相当の「新型インフルエンザ等感染症」に指定されている新型コロナの分類を5類に変更することも念頭に、見直す議論を加速させる考えを示した。

安倍元首相が見せた方針

 これまでそんな話を2回聞いた。1回目は約2年前の2020年8月、突然の辞任会見の際、安倍晋三首相が5類への変更を含む対策の緩和について述べた。当時は流行2波の時期で、医療機関も保健所も大混乱していた。

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医療経営を支えているという現実

 22年12月9日に開催された新型コロナウイルス感染症対策分科会では、議論の基本になるべき重症化率と致死率のデータが今春時点のものになっていることを経済系の2人の委員が指摘し多数の医療系委員からは重症化率や致死率だけでなく、伝播力、死亡者数、超過死亡、季節性、医療への負荷などを考慮する必要があるとの意見があったという。

 そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法15条では、インフルエンザの病状とおおむね同程度以上の場合だけ政府対策本部を設置することを明記している。ということは、法律上インフルエンザとの比較を基準にしているのだ。

 重症化率と致死率がインフルエンザとおおむね同程度である以上、インフルエンザと同じ5類への変更は法律から見ても当然だが、そうしたくないために感染状況が悪かった昔のデータを示し、そのことを指摘されると別の理由を持ち出す。その理由は何だろうか。

 11月30日の専門家組織「アドバイザリーボード」の会合で医療系委員から医療費の公費負担の見直しに慎重な意見が出された。新型コロナが発生する前は、社会の高齢化による医療費の増加が予算を圧迫し、その削減が大きな課題だった。19年9月に厚労省は全国の公立病院や日本赤十字などの公的病院のうち、診療実績が乏しいなどと判断した424病院に統廃合を含めた再編の検討を求め、病院には冬の時代が訪れていた。この状況が新型コロナで一変した。

 21年11月に厚労省が公表した医療経済実態調査では、新型コロナ流行に伴う受診控えの影響で、20年度には一般病院は6.9%の赤字となったが、病床確保料などコロナ関連の補助金があったため、合計では0.4%の黒字を確保した。コロナの補助金は診療所には70万円程度、一般病院には平均約2.4億円支給され、コロナ患者の専用病棟を持つ重点医療機関では約10億円だった。

 診療所ではコロナのワクチン接種に伴う収入が利益を押し上げ、感染者を受け入れた国立病院では利益率が43.5ポイントも改善し、コロナ関連の補助金額はそれ以外の収益より多かったという。

 補助金が出される根拠は2類指定のためであり、5類に変更するとなくなる。治療費が自費負担になれば通院は減るだろう。どんな理由を付けても見直しに反対したくなる医療専門家の気持ちは理解できる。