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英語の原題は「The Blunderer」。「失敗する人」、あるいは「どじな奴(やつ)」といった意味である。

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【産経抄】4月23日

 陸に引き上げられるヨットのスクリューにロープがからみついていた。その先から遺体が姿を現す。フランスの俳優、アラン・ドロンを一躍スターの座に押し上げた、映画「太陽がいっぱい」のラストシーンである。完全犯罪のもくろみが崩れ去る瞬間だった。

 ▼原作者のミステリー作家、パトリシア・ハイスミスには、『妻を殺したかった男』(河出文庫)という作品もある。男が周到なアリバイ工作の下、妻を殺害する場面から始まる。もう一人の男が新聞記事で事件を知り、興味を引かれる。愛人ができた男の妻も、やがて変死体で見つかった。

 ▼新聞記事ではなくスマートフォンで検索するところが、当世風といえる。29歳の運転手の男が、妻(28)を水難事故に見せかけて殺害した疑いで逮捕された。容疑者のスマホの検索履歴には、「事故死」や「溺死」といった単語が残っていた。

 ▼和歌山県白浜町の海水浴場で昨年7月に起きた事件である。容疑者の女性問題が原因で、夫婦関係が悪化していた。容疑者は妻に、女性関係の清算を約束して安心させて、海に誘ったらしい。妻には多額の生命保険もかけられていた。事件は、テレビのサスペンスドラマのような展開を見せている。

 ▼殺害に直接結びつく証拠が乏しいなか、逮捕の決め手となったのは、妻の体内から検出された大量の砂だった。司法解剖した医師によれば、浅瀬で無理やり顔を沈められた妻が海水といっしょに飲み込んだと、考えられる。完全犯罪はやはり難しい。

 ▼「妻を殺したかった男」2人がその後たどる運命は、ぜひ小説で確かめていただきたい。英語の原題は「The Blunderer」。「失敗する人」、あるいは「どじな奴(やつ)」といった意味である。

 


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