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トラベルとトラブル 11月10日

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【産経抄】トラベルとトラブル 11月10日

 英語のトラベルとトラブルは語源を異にしながら、元の意味はどちらも困難や苦労である。確かに昔、「旅は憂いもの辛(つら)いもの」だった。

 ▼日本で交通機関が発達し宿泊施設が整備されると、「旅行」という新しい言葉が広まった。「楽しみの為に旅行するやうになつたのは、全く新文化の御陰である」。民俗学者の柳田国男は、昭和2年の講演で述べている。辛い「旅」に対して、楽しい「旅行」を明確に区別していた(『旅行ノススメ』白幡洋三郎著)。

 ▼今ではインターネットで予約して、気軽に海外旅行が楽しめる。ただ、「格安」という「新文化」には落とし穴があった。旅行会社「てるみくらぶ」の破綻で、代金を払いながら旅行に行けなかった人は、9万人にものぼる。旅先で取り残され、「日本に帰国できないかもしれない」と不安に襲われた人もいた。

 ▼問題発覚から約7カ月たって、社長の山田千賀子容疑者らが詐欺容疑などで警視庁に逮捕された。決算書類を改竄(かいざん)して金融機関から融資金をだまし取ったというのだ。といっても、旅行代金はほとんどもどってきそうにない。

 ▼1841年7月、英国中部のレスターから約500人が臨時列車に乗り込んで、18キロ離れた町に向かった。禁酒運動の大会に出席するためだ。列車の手配から割引切符の宣伝、販売までこなしたのが、近代旅行業の草分けといわれるトーマス・クックである。

 ▼後に世界一周旅行を企画して日本を訪れ、美しい風景とおいしい牛肉を世界に宣伝してくれた。クックの目的は、観光旅行を酒以外に娯楽のない大衆の手の届くものにすることだった。経営が悪化してからも高額の報酬を得ていた山田容疑者には、どんな志があったのだろう。

 


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