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「時は全てを嗤(わら)う。ピラミッドは時を嗤う」

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【産経抄】11月5日

 「謎以外の何を愛せようか」とイタリアの画家、デ・キリコの言葉にある。米国牧師、ソックマンもこう言っている。「知識の島が大きくなるほど、不可思議の海岸線が長くなる」(晴山陽一著『すごい言葉』)。

 ▼古来、人は謎を愛して生きてきた。いかに科学が進もうと、洋の東西から「七不思議」が失(う)せる気配はない。知るにつれて謎が増え、人は探究心の針をとがらせてゆく。世紀の発見も発明も、謎解きの織りなす無限のループが生んできた。世界はうまくできている。

 ▼七不思議の第1項に挙がるピラミッドは、建てられた方法も、その理由も記録には残されていない。謎のかたまりにして、探究心をくすぐってやまない巨大な知の宝物庫である。存在そのものが、古代エジプト人のたたきつけた現代人への挑戦状と見ていいだろう。

 ▼名古屋大などの国際研究チームが、クフ王のピラミッドで未知の空間を発見した。長さ30メートル以上、容量にして200人乗りのジェット機に相当するらしい。物質を通り抜けやすい宇宙からの素粒子を測り、内部を透視して見つけたというから先端科学の勝利である。

 ▼新空間に王の埋葬室があった可能性も指摘され、謎は深まったとの見方もある。歴史学や考古学、建築学など多様なアプローチをもってしても、全容積の9割以上が未解明という。4500歳の建造物が宿す不可思議の海岸線は、終章のない長大な物語に違いない。

 ▼この発見が、なお闇の多い七不思議の一隅を照らすほの明かりになるといい。アラビアのことわざに「時は全てを嗤(わら)う。ピラミッドは時を嗤う」とあるが、今回ばかりは、太古の嗤いも耳に快く響く。吉報にあずかった現代人に、謎解きのもたらす甘美な酔いが回ったからだろう。


タグ:産経抄
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