【産経抄】アウシュビッツを生き延びた世界最高齢男性 8月14日
ナチス・ドイツが第二次大戦中にポーランド南部に造ったアウシュビッツ強制収容所は今、博物館になっている。数百人を一度に処刑したガス室や死体の焼却炉、死者の頭髪で作られた毛布…。
▼家族とともに博物館を訪れた小学生は、大きな衝撃を受けた。戦争について考え続けた少年は、後に国連ボランティアとなった。平成5年にカンボジアで犠牲になった中田厚仁(あつひと)さんである。
▼アウシュビッツでは、100万人以上のユダヤ人が殺され、生存者はわずか数%にすぎなかった。イスラエルから訃報が届いたイスラエル・クリスタルさんは、その一人である。113歳。昨年1月に福井県出身の小出保太郎さんが亡くなってからは、世界最高齢男性だった。
▼やはり強制収容所を奇跡的に生き延びた心理学者のV・E・フランクルが自らの体験をつづった『夜と霧』は、世界的なベストセラーとなった。日本でナチスによるホロコーストの実態が広く知られるようになったのは、みすず書房から邦訳が出てからである。
▼フランクルによれば、ユダヤ人被収容者から選ばれた監督者は、ナチス以上に仲間に残虐の限りを尽くした。「わたしたちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかった、と」。もっとも極限の中にあって、人間の尊厳を失わなかった人の姿もまた、フランクルは記録している。
▼ポーランド出身のクリスタルさんが解放されたとき、体重はわずか37キロだった。ソ連兵がくれたキャンディーで命をつないだ。家族をすべて失ったクリスタルさんは戦後、イスラエルに移って、新しい家庭を持った。「楽観主義者で、あらゆる物に希望と美徳だけを見いだしていた」。父親が生き延びた理由を娘さんはこう語っている。
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