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ワイダ監督の奇跡 10月12日

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2016.10.12 05:04

【産経抄】ワイダ監督の奇跡 10月12日

 先日、「デトロイト美術館の奇跡」について書いた。ポーランド南部の古都クラクフにある「日本美術・技術センター」も、いくつもの偶然が重なった、奇跡の産物といっていい。センターは、7千点を超える日本の美術品を所蔵している。

 ▼もともと19世紀後半に、日本文化にあこがれていた大富豪のヤシンスキーがパリで買い集め、国立博物館に寄贈したものだ。ナチス・ドイツの占領下の1944年、博物館で開かれた日本美術展に、レジスタンス運動に参加していた18歳のアンジェイ・ワイダさんの姿があった。

 ▼葛飾北斎や喜多川歌麿の浮世絵に感動したワイダさんは、「自分でも何かを表現したいという強い衝動にかられた」と後に語っている。その言葉通り、戦後は美術学校に通い、映画の世界に転じた。『地下水道』や『灰とダイヤモンド』など映画史に数々の名作を残した巨匠の原点は、浮世絵にあった。

 ▼昭和62年に「京都賞」を受賞したワイダさんは、センター設立を思い立つ。4500万円の賞金をそのまま建設資金に回し、自ら寄付金集めに奔走した。7年後にオープンにこぎつける。

 ▼ワイダさんを魅了した日本文化は、浮世絵だけにとどまらない。黒澤明監督を師と仰ぎ、歌舞伎の坂東玉三郎さんの才能にほれ込んでいた。米寿を過ぎてからも新作に意欲を示していたワイダさんの訃報が、昨日届いた。

 ▼「北斎漫画」にちなんで、「マンガ」の愛称で知られるセンターでは、茶道や書道の教室も開かれている。天皇、皇后両陛下は、平成14年のポーランド訪問の際、センターにも立ち寄られた。「天皇陛下が、私の最近の作品をご存じだった」。案内役を務めたワイダさんは記者会見で、うれしそうに語っていたそうだ。

 


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