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神隠しは起こらない 3月29日

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2016.3.29 05:02

【産経抄】神隠しは起こらない 3月29日

 民俗学者、柳田国男の『遠野物語』には、「神隠し」の話がいくつも収録されている。「サムトの婆(ばば)」の話もその一つである。松崎村寒戸(さむと)のある民家から、若い娘が梨の木の下に草履を脱ぎ置いたまま、行方不明になった。

 ▼30年余りが過ぎた、風が激しく吹く日である。親類縁者が集まったところへ、老いさらばえた姿で帰ってきた。どうして、帰ってきたのかと問われると、人々に逢(あ)いたくて、と答え、また去っていった。

 ▼電話が鳴ったのは、日曜日の正午すぎだった。電話を取るといきなり「お母さん」と呼びかけられた。母親は驚きのあまり、声が出なかった。埼玉県朝霞市で平成26年3月、行方不明になっていた女子中学生(15)からだった。

 ▼女子生徒は、東京都内の駅の公衆電話の前で警察官に保護された。両親はこの2年間、街頭でチラシを配るなど、娘の居所を懸命に捜していた。何十年もの長さに感じられたであろう、胸が張り裂けるようなつらい日々が、報われた瞬間だった。

 ▼女子生徒は自宅前で、知らない男に車に乗せられ、千葉県内の男の家に監禁されていたという。未成年者誘拐の容疑で身柄を確保された男(23)は、千葉大工学部を卒業したばかり。就職も決まっていた。女子生徒の自由を奪いながら、平然と大学に通い、社会人の仲間入りを果たそうとしていたわけだ。何とも面妖な事件である。

 ▼確かなことが一つだけある。妖怪や幽霊がすみかを失った今の日本で、「神隠し」が起こるわけがない。卑劣な犯罪者の仕業である。かつて、ある若者の行方不明事件を追っていた小欄の先輩記者は、警察署長に言われたそうだ。「神隠しですな」。北朝鮮の工作員による拉致事件とわかるのは、それから何年も後である

 


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