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小説の神様からのプレゼント 3月7日

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2016.3.7 05:02

【産経抄】小説の神様からのプレゼント 3月7日

 「銅像、記念碑等一切建てるべからず」。作家の志賀直哉は、息子あての遺言に記している。作品の舞台化や映画化にも難色を示した。小説だけを残したい、との気持ちが強かったようだ。

 ▼もっとも、「小説の神様」による後世の日本人へのプレゼントは、「暗夜行路」などの名作だけではなかった。昭和46年に88歳で亡くなった後、3400通もの古い手紙が見つかった。

 ▼明治中期から昭和40年代までの70年の長きにわたり、差出人も文学仲間から政治家まで多彩である。手紙の一部は、数年後に刊行された全集の別巻に収められた。本人あての書簡集は、前例のない試みだった。

 ▼それにしても、生涯に23回も引っ越したというのに、よく紛失しなかったものだ。門下の作家、阿川弘之さんは別巻の後記で、直哉の「几帳面(きちょうめん)なたち」を解説している。見知らぬ文学青年から来た原稿を返すときも、自分で小包にして書留で送るほどだった。

 ▼その後も、新たな手紙が次々見つかった。直哉の遺族は、原稿や写真などを加えた1万1886点を東京都目黒区の日本近代文学館に寄贈したという。「志賀山脈」と呼ばれた幅広い人間関係が明らかになるだけでなく、近現代史の資料としても貴重である。直哉同様に大切に保存してきた遺族にも、頭が下がる。

 ▼「何年たつても君は君僕は僕 よき友達持つて正直にものを言う 実にたのしい二人は友達」。資料には、作家の武者小路実篤から届いた書画も含まれている。二人は、雑誌『白樺』以来の盟友であり、文学観の相違から激しく対立したこともある。「枕元に飾って眺めていたいから、何か君のかいたものがほしい」。阿川さんによると、病床にあった直哉の願いに実篤が応えたものだった。


タグ:産経抄
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