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東独の悲劇を繰り返すな 11月12日

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2015.11.12 05:05

【産経抄】東独の悲劇を繰り返すな 11月12日

 1986年の欧州選手権女子砲丸投げで優勝したのは、東ドイツ(当時)のハイディ・クリーガー選手(21)だった。16歳から毎日、青い錠剤を飲み続けてきた。コーチはビタミン剤と偽っていた。錠剤の数が増えるにつれて、みるみる筋肉がついてくる。もっとも故障が相次ぎ、現役生活は短かった。

 ▼89年にベルリンの壁が崩壊し、統一ドイツが誕生する。秘密警察の文書によって、組織的なドーピング計画の詳細が明らかになった。70年代から80年代にかけて、人口1700万人にすぎない国が、五輪で大量のメダルを獲得してきた。その謎が解き明かされた。クリーガーさんも、錠剤の正体を知る。男性ホルモン系の筋肉増強剤だった。

 ▼冷戦時代、スポーツの分野でも米国と覇権を争っていた旧ソ連で、同じような計画が遂行されていた。「資本主義国家の記録を全て追い抜け」とは、かつての独裁者、スターリンの言葉である。そんな時代に、逆戻りしようというのだろうか。

 ▼世界反ドーピング機関(WADA)が公表した報告書によると、ロシアの陸上界で蔓延(まんえん)している薬物汚染には、国が組織的に関わっていた。2001年以降に開催された五輪と世界選手権で、ロシアの選手が獲得したメダルの8割以上に、ドーピングの疑いがかかっている。

 ▼クリーガーさんは引退後、ホルモンのバランスが崩れ、心と体の不調に苦しんだ。性転換手術を受け、ようやく平穏な暮らしを取り戻した。自殺に追い込まれた、元選手も少なくない。

 ▼若者たちの未来がゆがんだ国威発揚の犠牲となる、そんな悲劇を繰り返してはならない。実態の解明がなされないまま、ロシアがリオデジャネイロ五輪に参加するなど、とんでもない話である。


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