SSブログ

人間は、自然の猛威には逆らえない。

2015.5.8 05:04更新

【産経抄】
死火山にあらず 5月8日

 寺田寅彦は昭和10年4月、家族とともに箱根に出かけた。物見遊山の旅だったが、どうしても物理学者の目で、周囲を観察してしまう。「ごく古い消火山と新しい活火山との中間物といったような気のする山である」(『箱根熱海バス紀行』)。

 ▼消火山とは死火山のこと。阿蘇山や浅間山が活火山、富士山が休火山であるのに対し、箱根山は死火山である。かつての教科書には、そう書いてあった。有史以来、噴火の記録のない火山は死んだとみなし、記録があっても現在は活動していない山を休止と判定していた

 ▼もっとも現在では、この区分は使われていない死火山と思われていた御嶽山(おんたけさん)で昭和54年に起きた噴火が、きっかけとなった。その御嶽山が昨年9月、再び雄たけびを上げた。山頂付近にいた登山客ら57人の命が奪われた悲劇は、記憶に生々しい。

 ▼年間2000万人を超える観光客でにぎわう箱根山も、生き返る可能性が出てきた。先月末からの火山性地震は、すでに1000回を超えている。約3000年前に噴火が起きた大涌谷(おおわくだに)で、再び小規模な水蒸気爆発が発生する恐れがあるという。気象庁は6日、周辺から半径300メートルに避難指示を出し、噴火警戒レベルを平常の1から2へと引き上げた。

 ▼もともと東日本大震災以来、列島の地殻活動が活発化し、火山噴火の誘発が懸念されてきた。人間は、自然の猛威には逆らえない。それでも、被害を最小限にとどめることは可能である。御嶽山の昨年の悲劇を教訓にして、あらゆる事態に備えたい。

 ▼関東大震災の後、各地で被害の状況を調べた寅彦は、『天災と国防』のなかで、自らに言い聞かせている。「今回の苦い経験がむだになるような事は万に一つもあるまい」


タグ:産経抄
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

Facebook コメント