SSブログ

〈今、君と私が/公園のベンチで/一つのパンを/分け合っている/不思議だね/遠い兄弟さん〉

2015.4.19 05:02更新

【産経抄】
4月19日

 怖い目つきをするときに「目角を立てる」や「目を三角にする」などという。英語はさらに物騒で【look daggers(短剣) at】が「にらみつける」の意味になる。視線にせよ、言葉にせよ、先のとがった物にはくれぐれもご用心。

 ▼カラスのつがいは、何げなく巣を見上げた人間を敵と見なす。背格好や服装を覚え、その人が近づく度に威嚇や攻撃に打って出るという。ある自治体のホームページいわく、人が目配り気配りをせよ、と。どうやら、目と目で通じ合う関係にはなれないらしい。

 ▼こちらは目尻の下がる知らせである。犬と飼い主が見つめ合い、触れ合えば、お互いの体内に安心を感じるホルモン「オキシトシン」が増えるという。麻布大などの研究チームが米科学誌に発表した。赤ちゃんに授乳する母親から、分泌されるホルモンでもある。

 ▼研究では、触れ合う時間が長いほど犬と飼い主の双方が高い安心感を得たという。つい先日、安倍晋三首相と沖縄県知事のきな臭い握手を見たばかりである。いさかいの種をはらむ「目と目」が安心や信頼につながるという結果は、両者に何かを暗示しているのか。

 ▼1年ほど前、小紙「朝の詩(うた)」に載った詩の一節を思い出す。〈今、君と私が/公園のベンチで/一つのパンを/分け合っている/不思議だね/遠い兄弟さん〉(『犬とわたし』森口憲一)。「兄弟」の響きがいい。複雑に分かれた進化の枝も、もとは同じ幹である。

 ▼政府と沖縄、日本人という「兄弟」のはずが、安心と信頼のホルモンに満たされた様子はない片や「粛々」と腰を低くすれば相手が「上から目線」と目角を立てる。今は目と目が合っても、火花が飛び散るのみだろう。「人と人」は難しい。


タグ:産経抄
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

Facebook コメント