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▼〈あめの下乾けるほどのなければや着てし濡れ衣干(ひ)るよしもなき〉。

2015.3.16 05:04更新

【産経抄】
濡れ衣の乾く日 3月16日

 後妻が先妻の娘を陥れようとして、潮水がしたたる漁師の衣を娘の枕元に置き、密会の証拠として夫に告げ口した。「濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」の語源のひとつとされている。

 ▼あるいは、蓑(みの)がないと雨に濡れることから、「蓑がない」を「実のない」とかけた「ダジャレ説」もある。ともかく、「根も葉もない噂」や「無実の罪」という意味で、平安時代からすでに使われていたらしい。

 ▼最近では、インターネット上で濡れ衣を着せられるトラブルが増えている。川崎市の多摩川河川敷で、中学1年の上村遼太君(13)が遺体で見つかった事件でも、無関係の人物が「犯人」と名指しされて、困り果てている。

 ▼小紙の取材に応じた女子中学生もその一人である。犯人グループの一人と勘違いされて、名前や顔写真が知らない間に、ネット上でさらされていた。「人殺し」「しらばっくれるな、死ね」などと、見知らぬ人から脅迫まがいの言葉も浴びせられた。ショックを受けた女子生徒は、外出するのが怖くなり、最近は友人からの誘いも断っているという。

 ▼ネットが、私たちの生活をどれほど便利にしたか、説明するまでもない。小欄もお世話にならない日はない。一方で、人の道にはずれた使い方をすると、きわめて危険な凶器にもなる。先日、兵庫県の淡路島で起きた惨劇の前から、すでに狼藉(ろうぜき)を働いていた。被害者は以前から、加害者がネット上で繰り返す誹謗(ひぼう)中傷に困り果てていた。

 ▼〈あめの下乾けるほどのなければや着てし濡れ衣干(ひ)るよしもなき〉。無実の罪で筑紫に流された菅原道真は、雨に濡れる衣が乾かないように、自分の疑いが晴れることもない、と嘆いた。女子生徒の濡れ衣と涙が乾く日が、一日も早く訪れるよう祈りたい。


タグ:産経抄
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