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事実なら、日本の司法への信頼は根底から覆されてしまう。

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 静岡県の旧清水市で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害されたのは昭和41年だった。同じ年、米ニュージャージー州の酒場で、3人が射殺される事件が起こる。

 ▼主犯として逮捕されたのが、ボクサーのルービン・カーターさんだ。「ハリケーン」の異名を持ち、事件直前にはミドル級で世界ランキング1位まで上りつめていた。終身刑の判決を受けたカーターさんは22年後に再審で無罪を勝ち取る。冤罪(えんざい)の背景には黒人差別があった。両方と闘う姿は映画にもなる。

 ▼静岡県の事件では、近くのみそ工場に住み込みで働いていた袴田巌元被告が逮捕され、55年に最高裁で死刑が確定する。袴田さんもまた、かつて日本フェザー級6位にランクされた元プロボクサーだった。事件当時は体調を崩して引退し、カムバックに向けてトレーニング中だったという。

 ▼無罪を訴える袴田さんの支援に、元世界チャンピオンの輪島功一さんをはじめ、多くのボクシング関係者が駆けつけた。ボクサー仲間を助けたいという気持ちはもちろんだが、それだけではない。逮捕直後の報道では、「身を持ち崩した元ボクサー」といった言い回しが目立った。ボクサーに対する根強い偏見が、冤罪を生んだのではないか。そんな憤りからだった。

 ▼静岡地裁はきのう、裁判のやり直しを決めた。裁判長は「証拠捏造(ねつぞう)」の疑いさえ指摘している。事実なら、日本の司法への信頼は根底から覆されてしまう。長年支え続けた姉の秀子さんによると、釈放された78歳の袴田さんは心身ともに衰弱して久しい。

 ▼カーターさんは10年前、「あきらめないで」と袴田さんに手紙を送った。しかし、逮捕からすでに48年の月日がたつ。リングで闘い続けるには、あまりにも長すぎた。


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