【東京特派員】浮名ばかりは盗めない 湯浅博




山田五十鈴(女優)「たぬき」の立花家橘之助の役を演じ、芸に増々磨きがかかる


 伝説の女芸人、立花家橘之助(きつのすけ)といえば、先年亡くなった女優、山田五十鈴が演じた舞台の代表作「たぬき」のモデルであった。その美貌と三味線の凄腕(すごうで)で、明治、大正期に一世を風靡(ふうび)した。

 この初代橘之助は明治元年に生まれ、5歳で高座に上がり、8歳で真打ちに昇進して浮世節家元として名をはせた。男天下の寄席の世界に芸一本で君臨し、「女大名」の異名を持つほどの人気者だった。彼女が男名にこだわったのは、堂々、噺家(はなしか)たちと渡り合うためだった。

 浮世節とは、はやり唄(うた)の中に長唄、清元、常磐津、新内などの伝統芸を取り入れ、橘之助の天分をもって作りえた芸術であった。


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