日本の医療〝変革〟最前線
終末期医療への意思表明がしにくい日本の実情
個人の判断「リビングウィル」と国の推奨「ACP」の混在
2023/08/17
浅川澄一 (福祉ジャーナリスト、元日本経済新聞社編集委員)
「私、回復不可能、意識不明の場合、苦痛除去以外の延命医療は辞退致します」―――。名刺の余白に手書きした。筆者は評論家でNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんである。現在91歳。名刺には、2014年1月13日の記入日と樋口さんのサインが印と共に並ぶ。
樋口さんが延命医療の拒否を決意したのは、24年前にパートナーの終末期を見ていたからだ。言葉がなく、瞬きしかできない寝たきりの状態が3年間続いた。
「私自身がそのような状態になるのが嫌だった」。そこで「お任せデス(死)でなく、自分でデスを考えよう」として、名刺に記入した。いつでも携帯し、いざという時に医師に見せられる。