【正論】持続可能な社会つくる歴史観を 社会学者、関西大学東京センター長・竹内洋
「反復史観」から「成長史観」へ
私が子供のころ農山村にいくと、植林をしている年配の村人を見かけたものである。植林は治山治水のためであるが、当時は大きな木が建材としてよい値で売れ、現金収入の少ない農山村を潤すものだったからである。しかし、植林した木が大きくなるころに作業をしている人は、もうこの世にはいない。だから自分たちのためではない。もっぱら子孫の世代のための作業だった。
こうした作業に黙々と従事できたのは、高度経済成長がまだ人々の生活に浸透していない時代の農山村民だったからだろう。彼らの過去・現在・未来の時間(歴史)意識に、日の下に新しきものはなしの「反復・円環史観」が残っていたからである。自分たちが利便を得たのと同じものを子孫にも残さなければならないとなった。