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【産経抄】カヌーの薬物混入、フィギュアスケート界最悪の事件を思い出させる 1月10日


薬物混入問題を受け謝罪するカヌー連盟の成田昌憲会長(右)と古谷利彦専務理事=9日、東京都渋谷区


 


 事件が起きたのは、1994年1月の米デトロイトである。女子フィギュアスケートのナンシー・ケリガン選手が何者かに襲われ、右足を負傷した。事件は思わぬ展開を見せる。


 ▼捜査当局に逮捕された男は、ケリガン選手のライバル、トーニャ・ハーディング選手の元夫だった。果たして誰が襲撃事件を計画したのか。疑惑が深まるなか、2人はリレハンメル冬季五輪に出場する。ケリガン選手は銀メダルを獲得した。


 ▼結局、ハーディング選手の事件への関与は灰色のまま幕引きとなった。彼女はプロボクサーに転向したり、恋人への暴行容疑で逮捕されたりと、世間を騒がせ続ける。今夏日本でも公開される米映画「アイ、トーニャ」は、彼女の半生を描いた作品だ。


 ▼カヌーの有力選手が、ライバル選手の飲料に禁止薬物を混入させていた。ともに2020年東京五輪をめざすトップ選手だという。ドーピング検査で陽性となれば、追い落とせると考えたらしい。なんと浅はかな犯行だろう。ニュースを聞いて、フィギュアスケート界最悪のスキャンダルを思い出した人も少なくないはずだ。


 ▼ケリガン選手の傷が重かったら、当時13歳のミシェル・クワン選手が五輪に出場するはずだった。クワン選手はその後、世界選手権に5回優勝し、女王の称号をほしいままにする。ただ、五輪の金メダルだけは手が届かなかった。


 ▼最後のチャンスとなった2006年のトリノ五輪でも調子が上がらず、出場を辞退して若手選手に代表の座を譲る。「金メダルなしでも、私はすばらしい選手生活を送ったと思う」。記者会見では涙を浮かべながらも胸を張っていた。五輪に期待するのは、日本選手の活躍だけではない。こんな美しい涙が見たいのだ