秋風が吹き、肌寒い日が増えた。このところ、トイレに座り込んで、「ああ、温水洗浄便座があってよかった」と思う日が多い。
どんなに腹の調子が悪くても、壁リモコンの「おしり」ボタンを押せば、ノズルの温水がピュッと出て、肛門はすこぶる快適。
怖かったポットン便所
ポットン便所の昔ならこうはいかない。
臭い個室で尻を突き出したとたん、寒い風が下から吹き上げてくる。我が家では落とし紙以前に切った新聞紙を使っていた。子どもの手で揉んでもなかなか柔らかくならない。
冷えた風にゴワゴワの紙が痛かった。寒い季節には用を足すこと自体が苦痛だった。
現在、日本全土の家庭、オフィス、商業・公共施設にほぼ行き渡っている温水洗浄便座だが、ノズル使用の電気制御式便器は、最初アメリカで医療用に開発されたのだ。
それが1960年代後半に、日本の衛生陶器メーカーによって導入、製造販売された。
製品の性能や価格に紆余曲折があった時期を経て、品質が安定したのは1980年代。一般家庭に広く普及したのは次の90年代だった。我が家もその時代に購入した。
それから20数年、今では清潔志向が強い(強すぎる?)この社会に倣(なら)い、ウチでも「温水洗浄便座なしの生活は考えられない」。
考えてみれば戦後しばらくまで、家庭の便所は江戸時代のものと大差なかった。