原付バイクの大群が行き交うベトナムの首都・ハノイ旧市街─。その一角に建つ1泊3000円程度の中級ホテルのカフェテリアに8月下旬のある夜、ベトナム人青年を前に熱弁を振るう日本人の中年男性の姿があった。

 「ベトナムの大学でITを専攻した学生なら、日本に行けばすぐに就職できる」

 「日本の日本語学校を買いたいベトナム人はいないか。今より簡単に留学生を日本へと送れるようになる」

フエさんの故郷近くの町にある日本語学校。看板の大きな文字を訳すと「日本留学」(筆者撮影、以下同)

 

 男性の勢いに圧倒されながら、ベトナム人青年がたまに日本語で短い質問を投げかける。カフェテリアに他に客はおらず、2人の会話は筆者のいるロビーまで筒抜けである。男性は日本での留学生受け入れ、ベトナム人は送り出しに関わるブローカーなのだろう。

 留学生の斡旋(あっせん)は、日本とベトナムの間で今、最も盛んなビジネスの一つだ。1人の斡旋で数十万円の手数料が見込めるのだから無理もない。カフェテラスで「商談」に耽(ふけ)る2人の姿は、〝留学〟に名を借りた日本への「出稼ぎブーム」が続くベトナムを象徴する光景だった。

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