近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載はこうした状況を打破するために始められる、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。
昭和陸軍と政治
「統帥権」というジレンマ

髙杉洋平 吉川弘文館 1800円+税

 第1回として「昭和陸軍と政治」というテーマを扱った表題書を選んだ。需要が多いのにもかかわらず、蓄積のある執筆者は少ないというアンバランスのため、怪しげな書物がまかり通っているとくに是正が必要なジャンルだからである。それだけに本書の意義は大きい。

 本書の優れている点として、まず昭和陸軍を理解する上で重要な〝統制派と皇道派の正確な評価〟ということがある。1933年秋ごろに永田鉄山陸軍省軍務局長を中心に統制派が成立、荒木貞夫・真崎甚三郎らの将軍達と青年将校からなる皇道派との激しい抗争が続けられる。統制派の優位下、圧迫された皇道派の反撃として永田鉄山軍務局長斬殺事件がまず起き、そしてさらに皇道派青年将校が起死回生の企図として行ったのが二・二六事件であった。