山口県岩国市錦町宇佐郷は平家の落人伝説が残る里だ。ここで山口フィナンシャルグループ(YMFG、下関市)の山口銀行員が2020年4月に「バンカーズファーム」という会社を立ち上げて農業を始めた。以前は農業事業のファイナンスを担当していて社長に就任した植木智規さん、岩国の酒屋に出向して清酒造りをした経験がある三草宏樹さん、実家が兼業農家で唯一農業体験がある笹木将徳さんの3人だ。生産するのはワサビ。ワサビと言えば、静岡県と長野県が生産量で全国1、2位と他を大きくリードするが、かつては山口県も産地として知られていた。

「リージョナル・バリューアップ・カンパニー」というコンセプトで、誕生した「バンカーズファーム」。手前から三草宏樹さん(29)、笹木将徳さん(30)、植木智規さん(42)。山口県のワサビ産地としての復活を期す (WEDGE)

 銀行員がどうして志願してまで、しかも農業をするためにこんな山奥の町にやってきたのか。社長の植木さんは「危機感です」と、即答した。YMFGの行員の多くが「将来も自分たちの仕事はあるのだろうか?」と、疑問を抱いている。地域経済が衰退していくなかで従来型の金融サービスだけでは、自分たちの存在価値がなくなってしまう……。

 そんな危機感からYMFGでは、5年前から「リージョナル・バリューアップ・カンパニー」というコンセプトのもと、地域課題を掘り起こしてビジネスを通じて解決するという取り組みを始めた。バンカーズファームもそのうちの一つだ。

 ではなぜ、ワサビだったのか。事業の企画を担った植木さんは「地元にどんな産地があるのか調べているなかで発見したのがワサビだった」という。ただ、かつてのワサビ産地も生産者の高齢化や後継者不足で往事の賑わいが失われていた。

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