昨年12月で「アラブの春」から丁度10年を迎えた。しかし、今なお残念ながらアラブ社会で民主主義が根付いているとは到底言えない。欧米の論調には、そうではあってもいずれは民主主義が広まるであろうという希望的観測を述べているものが少なくないが、果たしてそうなるであろうか。

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 そもそも、10年前にチュニジアに端を発した一連のアラブ民衆による専制独裁体制に対する抵抗運動は、「民主化」を求めたものであろうかとの疑問がある。確かに民衆の抵抗により倒れたエジプトのムバラク政権、リビアのカダフィ政権、イエメンのサーレハ政権は長期間続いた専制独裁政権であったが、その後の展開は、立ち上がったアラブの民衆が民主化を求めたというよりは、次のようにみる方が正確であるように思われる。すなわち、長年の専制独裁体制下で失業問題を初めとする経済問題が解決せず、腐敗が蔓延するという代わり映えのしない状況に飽きて、何でも良いから、今の体制より自分達が望むモノを与えてくれる体制を望んで立ち上がっただけだったのではないか。

 例えば、エジプトではムバラク政権が倒れた後、民主的な選挙によりイスラム原理主義系のモルシ政権が誕生したが、モルシ政権の未熟な政権運営に対して民衆は失望し、その隙間を縫って軍事クーデターによりシシ政権が誕生して現在に至っている。シシ政権が続いているのは、確かに民主化を望む民衆を弾圧して政権を維持しているという側面も有るが、エジプトの民衆がある程度シシ大統領の政権運営に満足している面も否定できないのではないか。

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