以下抜粋

 この繊細なロマンチストが、今、なぜ重要なのか。それは透谷が、筆者が腰掛けている銀座の情景を、次のように書き記していたからだ。明治26年のある日、銀座の木挽町を歩んでいた自分は、橋の上から街並みをみていた。洋風と和風、和洋折衷の建物が並び、傍らを和服・洋服・背広・紋付きを着てせわしなく人びとが通り過ぎてゆく。そのとき突然、透谷は気づいたのだ。「今の時代は物質的の革命によりて、その精神を奪はれつつある」と(『漫罵』)。急速に近代化する銀座は単に豊かさだけの近代化にすぎないと。

 今から120年以上前、すでに透谷は表面だけの西洋化に溺れる日本に警告を発していた。この叫びは残念ながら、今の銀座にもあてはまる-そんなことを思いながら、この夏、ビストロの窓辺に筆者は腰掛けていた。